5)愛したのはだあれ

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玄関扉を開けると、一向に見慣れることのない無機質な光景が露わになる。 相変わらず、何もない。よく言えば整理整頓の行き届いた部屋。悪く言えば生活感の削がれたような部屋。蓮は入ってきた私に目を向けることもなく「待ってて」と宙に投げるような言葉を放っては、部屋の奥の方へと行ってしまう。 「あっ、適当に座ってていいから」 「うん」 そう言われる前から私は床に尻をついていた。 蓮が戻ってくるまでの間、やることもなく部屋を見渡す。ソファ、小さめのクローゼット、窓、アイドルのポスター、ベッド、あとエアコンがついてるのと、ここからだと死角になってるけど角にあるのがキッチンで、シャワー、トイレ別の気持ち広めに感じるワンルーム。床は申し訳程度に無地のカーペットがひいてあって、フローリングの冷たい感触が直に伝わってこないのは幸いだった。あとは何があるだろうかと注視してみても特筆すべきものはなく、私の座る無地のカーペットでさえも引き立ってしまうくらいにこの部屋は何もない。 一体どのような生活を送ればこんなに物が少なくいられるのかと、グラスに注いだばかりの炭酸水の泡の如く疑問が次々と浮かんでくる。 そんな疑いの念なんてもちろん気づかない様子で、奥から蓮が暢気に後頭部を掻きながら戻ってきて、私の隣に腰を下ろす。
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