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今まで過ごしてきた何年間かで初めて声が重なった瞬間だ。
「おい、どういうことだよ?」
「いやー、実は昨日彼女の靴が階段で脱げて転びそうなところをたまたま支えたら足がぐきっていってね。後で病院に行ったら捻挫してたんよ。」
「格好いいいんだか悪いんだかわからないな。」
「まさか彼女、お前の知り合いとはな。」
「職場の先輩だよ。」
「ふーん、もしかして好きとか? あ…やべ」
振り向くと彼女がうつむきぎみに顔を赤くして立っていた。
「いや、こいつすぐそーゆう方向にもってきたがって、すいません。ほんと単細胞なんですよ。」
「ほんと…こんなつながりってあるんだあ。運命かな?」
「え、こいつはやめといた方が…」
「ふふ、仲良いんだね。またね、橘君。」
そう言って手を振ると彼女は小走りで去っていった。
「親友の背中を押す俺、やっぱかっこよくね?」
「いや、誰が親友だよ。ていうか、いつお前に背中押されたんだよ。」
「これだから鈍感なやつはほんと…言っとくけどな、あの人はお前に奢る筋合いなんてこれっぽっちもないんだからな。ちゃっかり俺の恩恵を受けやがって。きっかけをつくってやったんだ、追っかけてご飯くらい誘ってこいよ?」
「ちょうどよかった。お前と家の目の前まで一緒に帰ることになるのを断る口実を考えてたんだ。さんきゅうな。」
「素直じゃないやつめ。」
どういうわけか、彼女に気があることはバレていた。
しかし、彼女も怪我をせずに済んだわけだし、腐れ縁も悪いことばかりではないと思った。
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