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てろりと光沢のある、美味しそうな焦げ目のついたプラスチックのシュークリーム。飾りでチョコだってかかってる。少し小さいけど本物そっくりだ。
「ねえ牛池、野球するならこれボールに使いなよ」
いうが早いか、あたしは振りかぶって投げた。いくつかの頭を飛び越えて、思ったよりも綺麗な軌道で、シュークリームは飛んでいく。牛池、ナイスキャッチ。
「わっ、何だこれ、急に投げてくるなよ。てか、おまえなんでそんな泣いてんだ」
食事中に物を投げるな、と怒った声が聞こえて、見れば体育の先生が卓を離れて怖い顔でこっちに来ようとしている。
牛池たちはボールが来たぞ、野球だ、キャッチボールだ、って騒いでる。あたしは無性におかしくなって、心の底から笑った。泣きながら笑った。
牛池が投げて、栗林くんがかっ飛ばしてくれたらいい。
いつか打てなかった打席のぶんまで、全力で遠くに打ち上げてくれたら、あのシュークリームがキーンと空に打ち上がったら、それはきっとこの上なく爽快だ。野球のルールは詳しくは知らないけど、もしシュークリームが打ち上がったら、今度は声が枯れるまで応援するから。
「ちょっとりん、どうしちゃったのよ」
「百合、行こうよ早く。ほら」
いつも落ち着き払ってる百合が、珍しく戸惑って見える。
あたしは百合の手を取って、みんなのところへ歩き出した。
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