いつかあなたに触れる時

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 真っ暗な森の中心に、不思議な空間が広がっている。  空は木々に覆われ、陽の光は全く差さない。それなのに、ぽっかりと開いた小さな空間は、柔らかい光にあふれていた。  光っているのは花だ。辺りの木の幹から、頭上の高い枝にまで伸びて絡まっている蔦に咲いた無数の花が、淡く金色に光っている。それは陽の光によく似ていて、仄かに暖かかった。  地上は柔らかい草に覆われ、色とりどりの小さな花に彩られている。大小様々の美しい羽を持つ蝶々が飛び交い、時折小鳥の鳴き声が響いた。小さな小川も流れている、美しい場所だ。  私はここで、魔女のお師匠様と一緒に暮らしている。  お師匠様はこの辺りで一番の力を持った魔女だ。この空間を作ったのもお師匠様で、私は花の光の外に出ることを禁じられている。  お師匠様は優しい人で、近隣の村の人々にも頼りにされていて、その手助けをする代わりに、食料や生活に必要なものを分けてもらっている。今も、村で風邪が流行っているからと薬を届けに行っている最中だ。     
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