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「池波先生、それ完全になめられてますよー。一回親を呼び出してがつんと言ってやったらどうなんですか。それか鉄拳制裁とか!」
「いやぁそれはまずいですよ。そこまでやったら新聞沙汰ですからねぇ」
音楽担当教師のくせに、過激な言動を恐れぬ岸上マイカ教諭が、煮え切らぬ池波に顔を近づける。
「そういう甘いこと言っているから、舐められるんですよ? ちょっと貸してください」
勝手に答案を奪われた。名前を見てあらっと岸上が声をあげる。
「あら意外。白紙って、この子が?」
「そうなんですよ。授業だってまじめに受けてくれてるし、素行も悪くない。悪い評判なんて聞いたことないんですよね。それなのに、僕のテストだけ、ずっとこうなんですよ」
1年の頃、彼女の担任だった教師にも聞いてみたが、白紙答案など提出するような子ではなかったという。それどころか現国の成績はかなりよかったらしい。もしや池波の方が彼女に何かよからぬことをしたのではないかと痛くもない腹を探られそうになったので、あわてて退散してきた。
「そうですよねぇ。だってこの子、音楽の授業も課題もサボったことないですよ?」
「はは、でしょうねぇ」
ますます胃が痛くなる。なぜ自分のテストだけ白紙なのだ。新任だからって舐められているのだろうか。だがそれにしては何か引っかかる。
「あ! わかった!」
岸上があやしげな笑みを浮かべた。貧乳を池波に押し付けてくる。
「この子、池波せんせの気を引こうとしてるんじゃないんですか。先生のことが好きで、ラブレターがわりに白紙の答案出してるとか?」
「いやそれはないでしょう。ぼくは女性にもてたことは一度もないので」
「でしょうねぇ。先生、いかにも目立たないって感じで、クラスで埋もれてそうですもんねぇ」
「結構ひどいことさらっといいますね、岸上先生」
これ以上職員室にいたら、何を言われるかわからない。白紙の答案を手に、立ち上がった。
「池波せんせ、どちらへ?」
「今から彼女に聞いてきます。国語準備室に呼び出してもらってるんで」
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