再出発

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   ―― パタン    寝室に入ると、途端静けさが戻った。    「あ……えっと……竜二? あつしや国枝の小母さん  とはどうゆう関係なの?」   「おふくろと弟だ」 「あぁそう……って、えぇっっ?! うそ……」 「似てねぇだろ? でも中身はそっくりだって、  良く言われる」 「ふふふ……」   「せっかくの休み、邪魔してごめんな」 「ううん。賑やかでいいじゃん」 「賑やか、ねぇ……」   「あ ―― 小母さんの言ってた  ”神楽くんとマコちゃん”って?」      竜二は手早く着替えながら話を続けた。     「俺が世話になってる煌竜会の親父と姐さんだ」   竜二はこの業界独特の流儀と掟を学ぶ為、  高1の時、系列の組織へ行儀見習に  出されたんだって。   この業界は昔から完全な縦割り社会で、  実の親子でも身分(役職)が上ならその命に  背く事は絶対出来ない、シビアな世界なんだそう。      (俺は急に怖くなった。   だって、竜二はいずれ母体組織のボスになる   ワケで……それに引き換え自分は……)     そんな不安な気持ちがつい、口に出た。     「……おれ、ここにいていいのかな」 「あ?」 「……」 「何、言ってんだよ」 「ごめん。変なこと言った。顔洗ってくる」  慌ててバスルームへ駆け込んだ。         たった1週間ほどで自分を取り巻く環境が急変し   ギリギリの状態のまま着いていっていたツケが  今頃になってまとめてきた。    目の前の鏡に映った自分はあまりに小さく・  無力で・情けなく……考えれば考えるほど、  竜二に相応しい人間は自分じゃないと、思える。    こんな事に今頃気が付くなんて……  ほんと俺ってバカだ。    洗面台に置いた握り拳がブルブル小刻みに震えだす。    じゅわぁぁぁ ―― っと、こみ上げてきた涙を  グッと堪えて冷たい水で顔をバシャバシャ洗って、  タオルで水気を拭い、活を入れるよう軽く頬を叩いて  もう1回、鏡の中の自分を見て ――    ……うん。もう、大丈夫。   バスルームから出た。
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