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「……竜二の車に落ちた日は、ちょうど両親の葬式が
あって、借金取りが弔問も早々に俺のとこに来て
”喜べ、いい買い手が見つかったぞ”って……」
「いい買い手、だと ――っ!」
竜二は何処へぶつけようもない怒りに
拳をぎゅっと握った。
「何とか叔母達の隙きをみて家からは逃げたけど、
もう、全てが嫌になって、このまま死ねたらどんなに
楽だろうって……最初は踏切で電車に飛び込もうと
したんだ。でも、電車にぶつかって飛散した轢死体が
頭に思い浮かんで止めた。それから後はあんまり
覚えてない。目が覚めたら、このマンションの
寝室だった」
「そうか」
そう言って俺の隣に座り直し、
頭を撫でて頬に溢れた涙を拭ってくれた。
「お前は何も悪くない。自殺はもう2度とするな。
お前のご両親だってお前が後追うようにあの世へ
来たら哀しむはずだ。違うか?」
俺は言葉もなく頷いた。
「だったらご両親より長生きするんだ。
そして強くなれ」
「うん……」
「ったく、んとに泣き虫だな……」
なんて、呆れたように呟き、
優しく抱きしめてくれる。
竜二の分厚い胸板はとっても温かくて、
むぎゅ~ってされただけでさっきまで胸の中で
わだかまっていた不安が薄らいでいく……。
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