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一陣の風が吹き抜けたと同時に
冷たい夜風が頬を撫でてゆく ――。
その童顔の少年はフェンスを乗り越えて
ギリギリの位置に立ち、
そっと瞼を閉じると深呼吸して臆する事なく
一歩前へ……。
「―― 社長、この後は元町で宜しいですね?」
「あ、あぁ ―― イヤ、やっぱり止めとくわ。
真っ直ぐ自宅へやってくれ」
「はぁ? 宜しいんですか? 浜乃家に寄らなくても」
「おぉ、かまへんかまへん」
等と、隣に座った50絡みの男と
言葉を交わしているところへ携帯の着信。
『――おぉ、聖子ママ、今ちょうど八木と2人
ママの噂してたところや……あー? そんなんやない
――おぉ、もちろん邪魔させてもらうで。あと、
**分もありゃ着くと思うさかい……あぁ、
ほな後で――』
渋顔でその通話を終えれば、
今の会話の内容から予定の変更の変更を
悟った隣の男は苦笑を浮かべこう言った。
「ま、これも義理ごとのひとつだと考えて、
諦めて下さい」
黒塗りの後部座席側の窓にスモークを貼った
セルシオが夜の公道を快走する。
助手席には屈強なボディーガードが、
そして後部座席にも50絡みの
これまた強面の男が乗っている。
その傍らに長い足を優雅に組んで座っているのは、
東日本一帯を統べる広域指定暴力団手嶌組
5代目候補・手嶌竜二である。
竜二は、2年前2人の義兄が相次いで凶弾に倒れる
といった非常事態から、自分が属する筆頭二次団体
”煌竜会”のフロント企業の運営に就いた。
昔ながらの稼業で財を成すヤクザ達も多い中、
飛び級でアメリカの一流大学主席卒業という
ある意味異色の高学歴が”インテリやくざ”と呼ばれる由縁で。
それに相応しい怜悧な容貌も、年に似合わぬ風格も
裏社会では異彩を放っているのだ。
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