おじいさんの古時計

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私が大学生だった頃の話です。 当時付き合っていた彼は地方のM市の出身でした。その日、私はよくわからない頼まれごととやらで、私鉄沿線の雑多な駅を降りて、彼の地元の友人Kに会いに行きました。 彼の話では、Kはちょっと変わった奴で、成績も良く、難関の県立高校を狙えたが、好きな女が工業高校に行くからと偏差値を20も下げて、工業高校に入った。そうまでして追いかけたのに、結局、その女はものにできず、工業高校をトップの成績で卒業し、M大の建築学科へ推薦で入った。今回、また女関係でいろいろあったらしく、女の意見が聞きたい。お前の彼女に聞いてくれよってわけで、なんか、金がないから、家でもてなさせてくれって。そんな話をしながらKのマンションに着きました。 出迎えてくれたKは、小ざっぱりした普通の青年で要はただ、友人の彼女を見たかっただけなのだと妙に安堵したのを覚えています。Kの作った鍋をつつきながら聞いたKの彼女のNちゃんの話はこうでした。 Nには持病があり、養護学校を卒業している。実は俺は妹を小児癌で亡くしていて、Nの身の上話を聞いた時、妹の代わりに俺がNを守ろうって決めたんだ。俺はNに決して無理はさせなかったし、門限も守り、いつもNの家まで送って行った。Nの部屋にはおじいさんの形見の古時計があり、壊れているが、形見だから捨てられないということだった。一度だけ音を聞いたんだ。Nと電話している時に。今の音、何?って言ったら急にNが泣き出して、あなたにも聞こえちゃったの?と。何でも、その時計は壊れているのに、たまに鳴るんだ。そして、その音はNにしか聞こえず、必ず誰かが亡くなると。お父さんが亡くなった時も鳴ってた。付き合っていた彼が亡くなった時も。ただ、彼女は養護学校にいただろう?だから、もともと、病気の人が周りに多いし、歩行者天国を歩いていたって死ぬ人は死ぬ。だから、気のせいだ、安心しろ。俺は必死に慰めたのに、次の日、Nがやって来て、もう別れようという。あなたを死なせたくない。私といるとみんな死ぬからと。ふいに、彼が、別れの言い訳に使われたんだよ。そう笑って、Kは私に女心を聞きたがった。なんて答えたのか、よく覚えていない。煮えすぎた鍋を食べて、帰りにNは駅まで送ってくれた。改札に入る私たちを羨ましそうに、Kはいつまでも眺めていた。 その後、Kとは音信普通になったという。
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