1

2/3
前へ
/19ページ
次へ
夢を憶えていることは少なくなった。でも、夜のランニングを週三回に増やした直後に、あのカフェの夢をみた。 駅から歩いて、辿り着いた円筒形のビルの二階は美容室だった。洋服屋じゃなかったっけ、と思いながら、一階のカフェに入った。 プラスチック製の色とりどりのテーブルと椅子がある。席につき、前にこの店に来た時、誰かに会ったことを思い出した。 誰だったか。嬉しかったのに悲しかったのは、何故だったか。 あのケーキ、佐倉さんと分けて食べたんだ! ああ、今さらそんなことを思いつくのか? 想像にすぎないのに、僕はそれを確信するというのか? 寝てないって? それでも、彼女が羨ましかった。 あそこには、芝田がいた。本当にあったことだろうか。 僕は誰が来るのを待っているのだろう。 芝田を睨んだ後で、僕を見たあの目を、いつ忘れるのだろう。 キシさん。(今は会いたくない。会うのは怖い。) 僕がここで会ったのはキシだ。でも、彼がケーキを運んでいたのは、別のカフェ。 このテーブルに小さな箱をおいた時、キシは嬉しそうだった。僕の夢の中だったから。 カフェの席に一人で座っている僕は、今もあの箱を開けたいと願っていた。 その切望に体が震え、胸が痛んで涙が溢れてくる。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加