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六月に入ってすぐ、職場に電話がかかってくる。配属になったばかりの新卒のスタッフがぎこちなく対応して、お待ちくださいと言った後、考え込んでからようやく保留ボタンを押した。
「あの、キシさんから、お電話です」
と僕の方を見て言う。
「僕ですか?」
「はい」
「わかりました。取り継ぐ時、何番にかかってきたか、一応言ってください」
「すみません!…三番です」
どのキシさんだろう、まさかあのキシさんじゃないよな、と思いながら、習慣ですぐに受話器を取って、三番の保留を解除した。
「はい、お電話代わりました、上野です」
「岸です」
キシの声だった。
「えっ!キシさん?」
「うん。上野くん?」
「うわ。本当にキシさん?」
大声になった。新卒の子が驚いたように見ていた。
「ほんとだよ」
キシの声は笑っている。
「日本にいるの?」
「日本にいる」
驚きや戸惑いよりも、声と話し方が懐かしかった。
「あのさ、上野の、会社のメールアドレスって前と変わった?」
「えっと、多分変わった、ドメイン変わったから」
「新しいドメインは知ってる。アットマークの前を教えて」
「うん、いい?」
名前と苗字を記号で奇妙に結びつけたのを言うと、
「ありがとう。メールする」
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