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とキシは言う。
「あ、わかった」
「仕事中に失礼しました。またね」
電話は切れて、僕は受話器を置いた。新卒の子が様子をうかがっている。
でも、普通に話せたじゃないか。キシに伝えながら書類の端に書いた自分のメアドを、しばらくじっと見つめていた。
その日、会社にいる間にメールは届かなかった。
夜のランニングの後、シャワーを浴びてから髪が乾くまでの間に、スマホを手に取った。少し考え、思いきって会社のメールをチェックする。
件名は、「岸です」だった。
本文は「空いてる時間があれば、教えて。」。
ランドマークにあるコーヒーショップの名前と、三つの日付と時間が書いてあった。
スマホを置き、ペットボトルから水を飲んだ。ボトルを置いて、すぐにもう一度スマホを手に取った。
「なんだよ…」
立ち上がり、部屋を歩き回り、次にベッドに座った時は、英司に電話をかけていた。
「今話せる?」
-少しなら。
「誰かいる?」
-うん。
「じゃあ、いい」
-早く言えよ。
「…キシが帰ってきた」
-誰だっけ?
「…あの」
-わかってる、あのキシね。…連絡あったのか。
物音で、英司が部屋を移動するのがわかった。
「ん」
-会うの?
「…どうしよう」
ドアを閉める音がした。
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