昨日までなかった移動販売車

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 一人暮らしの部屋がまた一段と寒くなる。 我に戻って自分を再確認してみる。  酔ってないよな。  夢じゃないよな。  眠くないよな。  色んな言葉で〝今〟を認識する。  やっぱり会社名がない。どうみても消えている。  そもそもこのスプレーは特殊なものとかそんな括りではなく、考えたら手品でも絶対にあり得ないことが実際に起きている。  自分しか見えない現実があって、もしかしたら異次元の世界に片足が入って、見えないものが見えちゃってる、とんでもなくヤバい状況なのではないか?  そもそもあの移動販売車は幻覚だった? 他の通行人はスルーしてたのではなく見えてなかったんじゃないか? 元を正せばあそこを歩いてたこと自体別世界なんじゃ…。  元を正せば、またその元を正す。一体どこが本元なんだか訳が分からなくなった。  二度と来ない移動販売車。  問い合わせ出来ない連絡先。  それでも噴射はあと2回分ある。 使い終わったときに何かあるのだろうか。使い終わると何か現れてくるとか?  はは……そんなわけないか。 今が例えば家族といたら、こんな不思議な現象に母親ならこう言うだろう。 「やだ、気持ち悪い~」 父親だったら多分こう言う。 「くだらないもの買ってんじゃない」 と、ごく自然な会話で何を気にすることもなく終わるはずである。  けれど一人というのは妄想の塊で、トイレから出たら異次元にある自分の部屋だった、ことに気づいてない自分。玄関あけて外に出たあの時、異次元の自分と入れ替わっていたーー。  またそのことに気づいてない自分がいて、今もなお知らずに生活しているのかもしれない。  あるはずのない現実を想像しては、ますます孤独になってドツボにはまるのである。  現実と異空間を同期してしまいそうな感覚に陥る。  時計を見ると夜中の1時を過ぎていた。 いつのまにか紅白もカウントダウンも終わっていて、自分だけ数時間置いてかれた気分だ。 いやな気分だ、寝てしまおう。  朝起きたら箱もスプレーも消えてくれてるといいんだがな。 スプレーの箱はまた棚の奥にしまっておいた。
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