偶然の産物

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その優しさは、反って怪しいもので、近年いじめ問題がよく取り上げられる時代、これはなにかしらの新たないじめのスタートではないかと、亮は少し警戒した。 しかし、男子生徒が次に発した言葉が、何故これほどまでのことをしてくるのかが納得できた。 「君、作家デビューした鈴原亮くんだろ。実は昨日のサイン会会場にになった書店。 そこで僕の姉さんが働いているんだ。その時の写メを見してもらっててさ。 名前も同じ、そして昨日の入学式を休んでいることからして、もしかしたらって思っていたんだ。 君が部屋に入ってきて、僕の推理は正しかったことが分かったよ。」 先ほど職員室で先生と話した中で、隠し通せるものではないと聞いていたが、まさか教室に入った瞬間、その時が訪れようとは亮にとって予想外であった。 亮はこの時、これからの高校生活を大きく左右する選択を迫られた。それは、ここで素直に認めるか、はたまたなんとか誤魔化すかである。 正直、後者においては亮自身も無理があるように思えた。 名前も顔もバレているのでは誤魔化しようがない。 特に良い誤魔化し方も見つからなかった亮は、それ以上考えることも面倒くさくなり、素直に認めようと口を開いた。 その時、いきなり横から「あー!」と叫び、こちらに近寄る影があった。 見るとそこには、昨日のサイン会場で会った、亮の本を手から落とした女の子がいた。     
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