520人が本棚に入れています
本棚に追加
/468ページ
「お前が後輩持つようになるなんてなぁ。感慨深いよ、長男としては」
「誰が長男だって?」
「俺さま。お前が次男坊」
「勘弁。とても『おにいさま』には見えない」
「照れるな! ホントに可愛いよなぁ、お前って」
手を伸ばした哲平が慌てて手を引いた。これまでに2度ほどこんなちょっかいで花から痛い目に遭っている。
花が入社して一年が経った。こんなに早く馴染んだのも、目の前でバカげたことを言っている哲平のお陰だと思っている。
そして今日、新入社員が挨拶をする。初めての後輩だ。
「今日からここに配属になったジェローム・シェパードだ。ある程度の前知識は入ってるな? 池沢のチームに入る。頼むぞ。ジェローム、自己紹介だ」
「ジェローム・シェパードです」
(え、終わり? 俺より短い……)
「彼の日本語に不安を持つ者がいるなら安心してくれ。日本生まれの日本育ちだ。以上」
全く溶け込もうとしないその姿は異様だった。花とは違うタイプの美しいジェローム。茶色の巻き毛と茶色の瞳。ひどく落ち着いていて年齢を間違えそうだ。頭がいいのは一目見て分かった。言葉に無駄がない、動作にも無駄がない。
けれどさらに無いものがある。感情だ。美しいはずの瞳にはなんの光も見えなかった。冷たい目。冷たい声。周りを切り捨てるような態度。
「あれ、ひどいな」
「何が?」
「上手くやってく自信無いよ。無理だ、俺」
驚いた。哲平が音を上げるなんて。
「だめ? 哲平さんが?」
「だってあいつ聞く耳持ってない」
「俺も似たようなもんでしょ」
「まるで違う」
「私もなんだか怖い」
「千枝も? 三途さんは?」
「ノーコメント。まだよく知らないし」
最初のコメントを投稿しよう!