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「碓氷、おはよ」
「ああ、おはよう。水野」
学校近くの街路樹は、まるで満開の桜は夢だったかのように、眩しい太陽で緑が透ける若々しい葉で覆われている。
ここを歩く度に、僕はあの日を思い出す。
佐野若菜を保健室まで送り届けると、彼女のマヌケな姿によってすっかり緊張の糸が切れていた僕は、入学式で冷静に挨拶を述べることが出来た。
普段なら生徒達の顔をカボチャやスイカに見立てたところなのだが、その日は佐野若菜を探し当てる余裕まであったのだから驚きだ。
簡単だった。
大半の生徒達は僕に視線を向ける中、もじもじと鼻を押さえながら俯き、時たま僕をチラチラと見ていた挙動不審な主人公だったのだから。
さすが期待を裏切らないな、と思ったものだ。
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