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鼻から生温い何かがたらりと垂れるのを感じた。 いつぶりだろうか、この感覚。 恐る恐る顔を上げた主人公は、そんな僕を見て一気に青ざめ鞄に飛びついた。 まるで信号機だ。 「すみませんすみませんすみません」 主人公はティッシュを取り出すと、それを僕の鼻に押し付けた。 「フガッ」 なんて日なんだ。 「あの、ごめんなさい」 この時、僕は初めてこのコメディ映画の主人公の顔を見た。 二重の丸い瞳に、小さな鼻、ぽってりとした唇は血色がいい。 ふわふわと風になびく長い髪から甘い香りがし、潤んだ大きな瞳に見つめられると、僕の胸はどこかザワザワした。
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