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海底の白銀
ゆらゆらと海百合が揺れる。それを横目に僕は歩く。
シーラカンスの祠の前を抜ける。そいつの目がじっと僕を覗いている。
何億年前からとりとめのないように、細々と続いていたのであろう風景が広がっている。
そのうち、雪(マリンスノウ)が降り始めた。僕の知らない場所で深海の雪が降る。
それは積み重なって続いていく。
変わりがなく。
代わりがなく。
替わりがなく。
そうやって、続くと疑いもせず、無邪気に思っていた。
朝。目を覚ますと、夢の中に居るような不思議な感覚に落ちる。刹那、空腹に頭を振り回され葛藤が始まる。
空腹と睡眠を天秤に掛けて、空腹の皿に授業の出席日数が上乗せされてゆく。
そうやって天秤は傾く。
時間を確認すると、すでに講義の開始間近だった。
走ればまだ間に合うだろう。
自宅を転がるように飛び出して、講義室に身を投じた。陣取る席はいつものように一番後ろ。
肩から荷物を下ろし、講義のプリントとノート、筆記用具を机の上に小綺麗に並べた。
「遅かったね」
隣からの呼掛けに目を向けると二年の付き合いになる水内が居た。肩ほどまでに伸ばした髪をゆらゆらと揺らしている。
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