170人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
ふつり、と喋らなくなった俺に対しても、こいつは変わらず優しかった。
柔らかな声で、言葉を紡ぐ。
屋上に吹く風がこいつの優しさを助長しているようにさえ、感じた。
自分自身も、とても珍しいと思う。
それなりに人付き合いというのもしてきたお陰で、分け隔てなく誰とでも接することが出来るのに。
こいつ相手だと、出来ない。自分を繕えない。
可笑しい可笑しい可笑しい!
そんな思いが巡って、また口を閉ざす。丸で堂々巡りだ。
「なんか印象違うな」
思考を巡らす俺を見て、矢神がそう云う。
何が、と問い掛ければ左右に首が振られる。
「なんかさ、深山って明るいイメージがあった」
ドキリ、心臓がなる。
「それとも俺が嫌われてんのかな?」
そう云って、苦笑い。
嫌いと云えば嫌いだと思うけど。
他人からそう思われてるんじゃないかという、こいつの心の闇を垣間見た気がした。
「…馬鹿じゃね、」
「そうかもねぇ」
ぽつりと漏らした言葉に矢神は笑う。
寂しそうな、なんとも言い難い笑顔で。
最初のコメントを投稿しよう!