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「あ、みやまー!」
「ぬわっ」
教室に戻った俺に、どすんという衝撃。
小型の何かが突進してきたせいで、身体がよろめいた。
「こら、千。深山むせてる」
ごほごほとむせる俺に(軽く鳩尾に入った。痛い)、結城が心配そうな目で見てくる。
べりっと引き剥がされて、千は幾分そのなつっこい笑顔を収めた。
「うるせぇ」
その言い方はまさに絶対零度。
千保梓。こいつはかなり裏表があるやっかいな奴だ。
ひゅっと冷たい風を流した千はそれが何事もなかったかのように話を進める。
「みやま、どこ行ってたの?」
一転してにこやかな笑顔と弾んだ声。
これが表バージョンの千だ。
「屋上。校舎内は目があるから」
「あぁ、矢神のせいだよねー…あいつ嫌い」
「…ちょっと、千。ブラック降臨してますが」
一気にブラックオーラを纏った千に逃げ腰になりながら、そう云う。
ひくり、と口元をつらせる千は怖い。
中学からの付き合いである俺と結城だから分かるのだ。
高校入ってまだ数ヶ月の奴らにはその変化すら見抜けないだろう。
…それほど、こいつの表裏は徹底している。
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