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カツカツ、と廊下を歩く音が響く。
大量のプリントを両手に抱えて、俺は相も変わらず矢神の後を追う。
足が長いって羨ましいなとどうでも善い羨望を抱きながら、ちらりと上目で矢神を見遣った。
あいつらの言葉は無神経で、矢神でなくとも怒ると思う。
現に俺だってカチンときたし、それほど彼らは言葉への配慮がなさすぎた。
…かと云って、その二次災害が俺に向かうのは嫌なことではあるけれど。
「…ごめん」
ふぅ、と小さく息を吐き出すと同時に前方から声が掛かった。
足元に向けていた視線を上げると困ったように微笑む矢神の姿。
「嫌な思いさせたよね」
「…や、そんなことは、」
「ウソ。すっげー眉間に皺寄ってたもん」
そう云ってへらりと笑う。
その笑顔はやっぱり俺がいつも目のしてたもので。
困ったような、けれど静かに嬉しさを含んだような、複雑な表情。
さっきとは全く違う、刺のない柔らかな笑顔。
…うん。
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