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(無料というメリットも大きかった)
好天に恵まれたその日も、小さな動物園には
まばらに人の姿があった。
たいていは小さな子供と親たちだったが、今日は中に混じって若い男女がいた。この時間でこの場所という材料から地元のカップルといった雰囲気に映った。
彼らはインコとガチョウのいる小屋と、ヤギやヒツジの暮らしている広場の間を通る細い通路に立っていた。
「まだかなあ」
女性がつぶやいた。
小さな広場を囲む、胸ぐらいの高さの鉄の柵を両手で上からつかみ、その上にアゴをのせている。いかにも待ちきれないといった様子だった。
「ヒロくん、何時?」
「あと10分。もう何回目だよ」
ヒロと呼ばれた彼の返事からウンザリした様子がにじみ出ていた。
彼は同じ柵に背中から寄りかかり、肘をついた。反り返って、待っている間に固まった背筋を伸ばす。空気が口から漏れて、思わず呻いた。
アイはいつも、そうだ。俺に何でも聞いてくる。今だって、自分の腕時計すら見てないし。秋の高い空を見ながら、彼は思った。
トンと軽い衝撃を受けて、我に返る。目は足元へと移った。
ヒロの腰の下ぐらいの背の子供たちが緑に塗られた鉄柵をつかんでアイと同じく、お楽しみの時間を待っていた。
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