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プロローグ
───薄暗い何処か。
私達の前に醜い獣が居る。
ただの獣であるなら私は何とも思わない、でもアレはただの獣とは違う、
側に倒れる獲物を見ればアレがどんな獣か分かる。
獣に甚振られた獲物、命を奪うだけならああは成らないはず。
醜い獣、それはそれは醜悪な獣の仕業。
見ているだけで私は気分が悪くなってしまう。
本当に、アレは何て醜い獣なのかしら。
「─……────……。」
醜い獣が此方を見据え唸る。そんなまさか、唸り声までも
聞くに堪えないなんて……。内に広がる不快感が増すばかりね。
私は自分の手を握ってくれている父の手へと、その温もりへと意識を集中する。
……暖かさと安心感が、自分の心内に満ちて行くのを感じ、獣に与えられた
不快感が和らいで行く。
「目?」
「───…─────!」
お父さんの優しい声が不快な音で上書きされる。
それだけじゃない、獣はとうとう此方に噛み付く気らしい。
危険を察した父の手に引かれ、私はその大きな背へと庇われた。
父の背は高く、広くて、どんな壁よりもきっときっと強固なのでしょう。
愚かな獣。獣如きではお父さんに敵う筈も無いのに。
私は静かに事が終わるの待つ。
「(……あら?)」
でも、何も起きない。獣も父も何もしなかった。
「(どうしたのかしら?)」
気になった私は父の背から前を覗き見る。
驚いた事に覗き見た先では、獣の側で倒れていた獲物が
獣の足を掴んでいた。怪我の具合から死んでしまっているとばかり
思っていたけど、生きていたのね。良かった。
でも何故私達を守るような真似をしたのかしら?
そんな事をすれば。
「───!─!────!」
ああほら、獣が怒っているわ。自分の足を掴んでは
邪魔をした、獲物の事を。
怒った獣は獲物へ襲い掛かろうとしている、そのまま静かにして
居れば、獣の怒りを買う事も無かったはずなのに。
……もしかしたらアレは、アレこそ母が話していた?
大変! だとしたら助けてあげなくちゃ!
自らの危険をも顧みなかったあのヒトを!
でもどうしましょう、今の私では助けられない!
だから私は、心から願い、叫んだ───
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