プロローグ

1/1
前へ
/303ページ
次へ

プロローグ

 ───薄暗い何処か。  私達の前に醜い獣が居る。  ただの獣であるなら私は何とも思わない、でもアレはただの獣とは違う、  側に倒れる獲物を見ればアレがどんな獣か分かる。  獣に甚振られた獲物、命を奪うだけならああは成らないはず。  醜い獣、それはそれは醜悪な獣の仕業。  見ているだけで私は気分が悪くなってしまう。  本当に、アレは何て醜い獣なのかしら。 「─……────……。」  醜い獣が此方を見据え唸る。そんなまさか、唸り声までも  聞くに堪えないなんて……。内に広がる不快感が増すばかりね。  私は自分の手を握ってくれている父の手へと、その温もりへと意識を集中する。  ……暖かさと安心感が、自分の心内に満ちて行くのを感じ、獣に与えられた  不快感が和らいで行く。 「目?」 「───…─────!」  お父さんの優しい声が不快な音で上書きされる。  それだけじゃない、獣はとうとう此方に噛み付く気らしい。  危険を察した父の手に引かれ、私はその大きな背へと庇われた。  父の背は高く、広くて、どんな壁よりもきっときっと強固なのでしょう。  愚かな獣。獣如きではお父さんに敵う筈も無いのに。  私は静かに事が終わるの待つ。 「(……あら?)」  でも、何も起きない。獣も父も何もしなかった。 「(どうしたのかしら?)」  気になった私は父の背から前を覗き見る。  驚いた事に覗き見た先では、獣の側で倒れていた獲物が  獣の足を掴んでいた。怪我の具合から死んでしまっているとばかり  思っていたけど、生きていたのね。良かった。  でも何故私達を守るような真似をしたのかしら?  そんな事をすれば。 「───!─!────!」  ああほら、獣が怒っているわ。自分の足を掴んでは  邪魔をした、獲物(あなた)の事を。  怒った獣は獲物へ襲い掛かろうとしている、そのまま静かにして  居れば、獣の怒りを買う事も無かったはずなのに。  ……もしかしたらアレは、アレこそ母が話していた?  大変! だとしたら助けてあげなくちゃ!  自らの危険をも顧みなかったあのヒトを!  でもどうしましょう、今の私では助けられない!  だから私は、心から願い、叫んだ───
/303ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加