音もなくそれは舞い落ちた

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 その日の夜のことだ。読書を終え、そろそろ寝ようとしていた私は、突然鳴り響いた大爆発音に仰天した。  ガタガタと振動する家屋。ビリビリと鳴る窓と家具と食器。  戦場でも聞かなかったような音だ。大型の航空爆弾でも、大火力魔法でも、これほどまでの音では決してない。  空から星でも落ちてきたのだろうか?  私は窓から顔を出し、周囲を見渡した。すると、西方のシンの荒野の上空に、眩いばかりに輝く光の柱が三本立ち昇っていた。  不気味なほど白く、凄まじいまでの存在感を放つ三本の光の柱。それは、十字架のようにも見えた。  村人たちも外に出て、この怪異を目の当たりにして騒ぎ始めた。口々に「おお、神よ!」とか、「不吉だ!」などと喚いている。  しかし、数分もすると光の柱は忽然と姿を消してしまった。どこを見渡しても、その痕跡すら認められない。不思議なこともあるものだと、村人たちはブツブツ呟きながら家へ戻って行った。  私も、辺境特有の気象現象だろうかと訝しみながら、寝台に横になった。まったくとんだところに療養に来てしまった、と嘆く気持ちは、次第に夢の中に溶けていった。
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