音もなくそれは舞い落ちた

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 日の出前に起きるのは、私の兵隊時代からの習癖だ。その日もいつも通りの時間に起きた。  ほどなくして私は、寝台の上で横になったまま、家の外から漂ってくるある異様な雰囲気を感じ取った。  静かすぎるのだ。  この雰囲気を私は良く知っていた。これは、雪が降り積もった明け方の故郷の空気とよく似ている。  私は窓を開けた。  目に飛び込んできたのは、一面の白だった。  屋根も道も、空き地も塀も、教会の尖塔も、見渡せる限り一面が白い何かに覆われていた。  雪ではない。季節ではないし、そもそもこの辺境に雪が降ることは決してない。  一体これはどういうことかと思案している間に、村人たちも目覚めたらしい。あちこちで大騒ぎする様子が伝わってきた。  私は横になった。早朝恒例の鋭い腹痛に襲われたからだ。詳しいことはアンナに訊くとしよう……
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