丸い空

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「あなたたちがやったの?」  底から押し上げられた真登香の目の前に広がる白と灰色の雪景色。数万人の群衆が手を振っている。目を細めて見直すと、それは人でなかった。オオシラビソやコメツガなどの針葉樹が強風に煽られて見えた幻想。 「来ないで化け物」  真登香が警戒したのは揺れていた針葉樹ではない。間違いなく人の形をしている何か。強風に乗って吹き付ける雪が磨りガラスのように視界をぼやけさせる。 「呼んだのはお前だろ」  その人の形をした声の主は真登香と同じように、筒の中を通ったように響いていた。 「あんたは何なの?」 「お前と同じ化け物だよ」  そう言って歩み寄った姿はどこか見覚えのある男だった。だけど、慶介ではない。顔は10代後半にも見える幼さを感じた。端正な顔立ちをしているけれど、切れ長の目が信用できなかった。この男を知らないのは確か。それでも見覚えがあるのは服装のせいだった。  大学時代の山岳サークルで、同じ服を着ていた先輩がいた。当時28歳でおっさんと呼ばれていた人がいつも登山の時に着ていた服だった。初登頂から着続けているんだと自慢していたことを思い出した。 「いくつなの?」  真登香の問いかけに、男は笑みを浮かべた。口元が裂けたように口角が吊り上がった。 「それは俺が死んだ時の年齢?」 「そうだけど」 「あんたはいくつ?」  男は答える前に真登香へ問い返した。 「24」 「俺は25」  男の口角は吊り上がったままだった。一つ年上なのは嘘だと思った。男が雪を操って穴の底から出してくれたことは間違いないけれど、それを救ってくれたとは素直に喜べない。何か目的があるのだと思った。 「なぜ私の前に?」 「助けを求めたろ?」 「救ったって言いたいの?」 「それ以外にこの状況をどう説明すればいい?」  男は呆れたように両手を広げて首を傾けた。 「私をどうするつもり?」  男は黙っていた。 「雪が操れるの? なんなの? 妖怪なの?」  男は答えない。
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