186人が本棚に入れています
本棚に追加
「あぁ。それなら良かったです」
固く閉じた蕾が花開くように、小野原はふわりと笑った。なんだ?なんだ?なんなんだ?奇妙という言葉に尽きる。
「あ、どうぞ!続けてください」
小野原に促されたので先を進めることにする。
踏み込んじゃいけないことは、ある。趣味とか性癖とか、そういうのとは別の禁忌のような。小野原は得体のしれない人だ。ホントにヤバイやつだったら困る。今日はもう深く掘るのはよそう。
「今、伺っているご連絡先は携帯番号だけなので、ご迷惑でなければご勤務先のお電話番号もお教え願えませんか?」
私の丁重なお願い。だが、
「あぁ!それなら大丈夫です」
毎度のことながら期待する答えとは違う答えが返される。
「大丈夫、といいますと?」
「あと6日ほどはいつでも携帯は繋がりますからご心配に及びません」
「いえ、その後もですね――」
どこまでも食い下がる私に小野原は、
「この話はそんなに長引く話ですか?」
ピシャリとシャットアウト。これはもう絶対無理なやつ。私は回れ右で元の位置に戻る。無理強いはしない。
「森野さん、今日明日にでも終わらせましょう。長引かせたくない」
小野原はいいことを言う。同感だ。早く終わらよう。
言葉を交わしている間にいつのまにか震えは止まっていた。よし!今なら大丈夫。さあ、はじめよう。
「では、お車の所有者の滝川はなさんとはどういったご関係なんですか?」
「滝川さんですか?友人ですよ」
なんでそこだけそんなに自信満々なんだ!ってぐらい、事もなげに答える小野原。だが、設定お忘れじゃありませんか?事故当初は親戚の方。それじゃあスタートよりも随分と遠い関係になりましたよ?
「どういった?」
「気になりますか?」
「そうですね。示談も賠償金のお支払いも滝川さんとさせて頂きますから」
揺さぶるように小野原をはじき出した嫌みを投げる。
最初のコメントを投稿しよう!