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あ、なるほど…
0主張とは『自分には過失がなく、責任の全ては相手にある』と主張すること。
全部の情報が出揃ったわけではない。そう主張する理由も明白ではないが現場での態度の悪さが尾を引き、こうなることもしばしば。珍しいことではない。
ここで何が問題かって、賠償金を支払う必要がない場合はその保険会社は示談交渉ができないことだ。
本来、弁護士ではない人は報酬を受け取って示談交渉を行ってはならない。しかし「被害者からの直接請求権(被害者は保険会社に直接損害賠償を請求できる)」というものが約款に規定されているため、保険会社はそのクレームの当事者と拡大解釈し示談交渉ができる仕組みになっている。
だが今回のように0主張、つまり契約者からこちらは悪くないので“損害を賠償するものはない”と主張されたら、賠償するものがない以上保険会社は当事者にはなれない。結果、保険会社は相手と交渉することはできないのだ。あくまで保険会社は契約者の意思の元に動く。そういう捻じれたような理屈。
こういった場合は、まずは0主張している被害者の保険会社を出すように説得をすることから始める。こちらの都合で申し訳ないが、レジェンド椿にご登場いただくことが解決への最短ルートだ。どうにかしてくれる。
被害者欄の名前を指差し、続いて固定電話を指す。メモ帳代わりに使用していた紙に、直接交渉、と大きく書いて田神に突きつける。勘の良い田神だ。これで伝わる。
が、田神は力なく首を横に振る。え?なに?
「晴さん、違うんですよ」
うん…
「そうじゃなくて」
うん?
「うちの契約者が0主張なんですよ」
あっ、そういうこと…
しょぼくれた顔と声に、コクコクと頷く。ソーリー、アイ、アンダースタンド。
あぁ、こっちね。だから相手側の担当者が決まってたのね。
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