186人が本棚に入れています
本棚に追加
にしてもだよ、0主張って…
過失がない事故とは、追突事故や赤信号無視、センターラインオーバーなど自分では避けようもないものに限られる。
凶器にもなる鉄の塊を乗り回しておいて、「私は悪くありません」とか、それも今回はこちら側に停止線があって過失が大きい件でそんなことを言うって。説教はしないけど、
「ないわー」
そこはさ、何はさておき、『ごめんなさい。大丈夫ですか?』でしょ!?謝罪=非を認めることではない。礼儀だ、礼儀。
『ない、ですか?』
田神に届かないぐらい小さく漏らした一言でも集音器よろしく、私の声だけをよく拾う受話器。その向こうの人にはそれはそれはクリアに届いたようだ。
あっ…
赤い砂が垂直落下する様にサッと血の気が引く。
肩と耳で挟んでいるこの受話器、これ、決して大きめのイヤリングではございません。
電話での交渉が1日の大半を占めるセンターではハンズフリーのヘッドセット受話器が導入されている。しかし私には支給されなかった。それはもちろん、こういう不測をやらかしそうだったからで。
しかし最新機器とか関係なくご期待に沿って、やってしまった。
受話器を持ちかえる。立ち上がり、見えはしない相手に腰を90度に折って、深く頭を下げた。散らばった書類の上に髪がバラバラと音を立て髪が流れ落ちるのも気にせず、頭を下げ続ける。
「申し訳ありません。決して小野原さんに申し上げた言葉ではありません」
突然何度も頭を下げ始めた私に田神は「いいえ」と困惑顔で手を横に振る。
田神、君じゃない!
『お会いしてお話しませんか?森野さん』
「はい、ぜひ!!もちろんですよ」
小野原からの提案に一も二もなく乗る。
最初のコメントを投稿しよう!