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笑っている?変わらず素っ気なく感じる小野原の声だが、少し柔らかさがプラスされた気がする。気のせい?
「小野原さんのご都合の良い日は?」
その問いに、
『こちらは1週間でケリをつけなければなりませんので』
「ケリ、ですか?」
さっきまでとは違う種類の言葉が返される。
『言い方が悪かったですね。カタ、ですかね?こちらの事情で申し訳ないですが時間が取れないので明日にでもお会いできたら』
ケリもカタも一緒な気がいたします。やはりムカついていらっしゃいますか?それなら、どうぞ、木っ端微塵に罵ってスッキリなさってくださいませ。
「明日ですか?はい、もちろん!小野原さんのご都合の良い時間と場所をご指定頂きましたら、どちらにでも伺います」
勢い任せたセリフも、
『どちらにでも、ですか?』
引くに引けず、元気に答える。
「もちろんです!」
と。はい、もちろん無理です。「どこにでも行きます」は、ない。普通、ない。ないけど、ないとはもちろん言えない。
浅慮なことばかり口走っている。下り坂を足だけが勝手に駆け出し、魂が少し遅れてついて行く感じだ。止まりたいのに止まれない。
『じゃあ…明日、改めてお電話をさせて頂きます。時間外でも大丈夫ですか?』
「は、はい…大丈夫です!」
時間外って、夜?面談の時間が遅いのは小野原なりの配慮?それとも昼間に会えない何か特別な事情?あぁ!でも、今はもういい。考えないことにしよう。ここから離脱することが第一。第二目標は明日に備えてデロリアン探し。
『じゃあ、また。明日』
耳を疑うほど軽く締められた。通話が切れ、ツーツーというビジートーン。「失礼します」も言えなかった。
放心したまま、音を立てないように受話器を戻す。頭の芯の部分がジンジン痺れている。『また明日』がずっと頭の中で、小野原の声で再生され続ける。ドキドキが止まらない。
「晴さん…?」
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