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『申し訳ないですが、全治3日の打撲なんです』
と、返される。笑っちゃいけない場面で、笑いを誘う椿。心をほぐすのが上手い。今回の件はひとまず、椿に預かってもらうことで了承を得た。
互いに状況確認をし、過失割合の認識確認も済ませておく。場外乱闘を持ち込まれたことがわかると気持ちが軽くなり、同時に口も軽くなった。
『ほどほどにやっちゃってもいいんですよね?』
冗談ではなく本当にやり込めそうな雰囲気で尋ねる椿。気持ち的には、もうこてんぱんに…だけど、流石にそうは言えない。
「ほどほどでお返し頂けたら。いつもすいません。助かってます」
と、あくまで低姿勢に。他社の人間だが椿のことは信頼している。尊敬もしている。“ほどほど”も知っているから問題ないだろう。
『森野さんは週末もお忙しいでしょうから、週明けにでもお返ししますね』
「お気遣い、ありがとうございます」
週末は夢の中だと思うけど。ご協力ありがとうございます。寝床を思い出して思わず頬が緩む。
全ての形を整え終え、受話器をおき、バタンと机に突っ伏す。どうにか電話が終えられたことに改めてホッとする。
しかし斜め上から降り注ぐ粘着質な視線。顔を上げる。
「何か用?」
役立たずに吐き捨てるように言う。揶揄われるのが想像つくので投げやりにもなる。
先ほどまで電話に夢中だった月島はニヤニヤと私を見下ろす。何をどこまで聞いていたのか…
「1時間と9分」
ご丁寧にスマホをかざして見せてくれる。それを無視。
「デロリアン、グーネットで1台お願い」
ドク、頼むよー。
「で?お酒飲んで調子良くなったんだね?」
「そうかも。無駄にエンジンの回転数が上がった気がする」
月島は肩を回してエア遠投。ガラス割って叱られたらいいのに。かつおのように。
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