セッション

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「そんな身も蓋もない」 私の拒絶に、 「え、でも、じゃない?」  月島が田神に話を振ると、田神も無言で頷いた。 「ちょっと待ってよ。ちょっとさ」  慌てる私をよそに、二人は冷静に分析してますみたいな顔で交互に頷いた。  いくらヤバい人だとしても事故解決までは付き合わなくてはならない。まして明日、そのヤバイ人に会う約束までしている。優しくフォローして欲しいとまでは言わないが、せめて背中を押す魔法の言葉ぐらい出してほしい。愛はないのか? 「いや、だっておかしいだろ!?怪しすぎるって!!」  と、笑いもなく追い込んでくる月島。ヤバくておかしくて、怪しい。うん、究極だねって、 「なんでそんなに追い詰めるの!?」 「マジで気づいてないみたいだからさ」 「え?」  月島の本気トーンに座り直す。 「まずは普通やることは新車要求だろ?で、さらに金が欲しいなら病院通い詰めて休損請求するだろ?さらにそこからの慰謝料請求」  月島が言う休損とは、休業損害のことだ。  交通事故で通院や入院している間、会社から給与を減額された場合にその損害を補償する。 「それにさ、そんなに時間的に切迫してる状態なら原状回復とかまどろっこしいことは言わない。保険金を釣り上げたいなら具体的な数字も出すだろ?普通。車の所有者と連絡つかないのも気持ち悪いよな。あ、でも結局、うちの契約者だったって話だろ?それ」 と、月島が畳み掛けてくる。しかしよく知ってる。 「あぁ、それね、さっき課長が教えてくれた」  蓋を開けてみたら、加害者も被害者もうちの契約者だったという話。 「連絡先は?」  月島が食い気味に尋ねる。 「同じだった」 「ほら!絶対おかしいって」  月島は尻尾を捕まえたぐらいの興奮具合で、机をバンとたたく。
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