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「まぁ、ね」
一方でそこに乗っていけない私。むしろ乗ってはいけないとも思っている。
「まぁ、ねって、晴」
自慢じゃないが、おかしいことなど、だいぶ前から気付いている。
しかし私の気のない返事に月島は怪訝な顔をする。
「違うって!だから月島の着眼点はさ、普通って言うか、目新しくないというか」
「んだと?」
「だって、なんで最初から金銭目的なの?」
突っ走りすぎだと窘めたかったが、
「逆にそれ意外に何があんだよ」
そう言われると、それ以上が出てこない。言葉に詰まる。
「いや、だからね、私も同じこと思ったし」
「だろ?」
「だから、わからなくなったの」
語尾が萎んだ私に、ここぞとばかりに月島はさらに追い込んでくる。
「だからヤバいって言ってるだろ?目的が見えないんだから、相当やばい」
そう言い切った月島は眉間を狭めて、じとーっと見る。どうにも居心地が悪い視線だ。逃げる様にそこから逸らして、ハッとその意味に気付く。
「私!?」
もしかして、私が標的?
「ただ話を引き伸ばしたいだけ。困らせたいんじゃないの?」
テーブルに肘をついた月島は静かに尋ねる。いつになく穏やかな口調に私は息を飲んだ。
「晴の知り合いってことはないのか?」
と、月島。今までにはない種類の恐怖に鳥肌が立つ。
「な、ないよ!」
「昔揉めたヤツとか?」
「え?そんなの急に言われても、わかんないけど…ない、と思う」
そうは言っても、当然動揺する。
示談する時は納得してから判を押してもらう。一つ一つ、特に重いクレームの説明には時間を大きく割いてきた。質問には嘘偽りなく誠心誠意、答えている。途中紆余曲折があっても、双方が納得して終わる。
誰も彼も怒らせているわけではないし、でもまた振り返ることはあるだろう。だって人間だもの。
何度も何度も思い返す間に大事な部分がすり減って、曖昧になって、いつしか遺恨に…なんて、勝手にしてもらいたくはないけど、そういう想像が容易くできるということは、そういう不安を残してきたということで。考え出したら膨大な量。全部を拾い出すなんて不可能。
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