セッション

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 ところがこれだけビビらせておいて「そうじゃない」と、月島が否定した。 「仕事じゃなく、プライベートの方な」  と、もっと怖いことを言い出す月島。 「プライベート?」  聞き返すと、うんと月島は頷く。 「仕事と思っただろ?」 「ロシアンマフィ――」 「だから、それ、俺のクレームだから!それにマフィアじゃないから。違うから!軽々しく口にすんなよ!もう!!」  月島にとって呪いの言葉を口にした私に月島は早口でまくし立ててきた。そんなに慌てるってもう冗談にならない。否定でしっかり肯定しちゃってる。  背後を確認して、まぁつまり、コホンと月島が咳払いをする。間に変な動きを挟まないでよ。私も月島の背後をこっそりと確認してしまう。 「終わってる案件ならこんな回りくどいことはしない。咄嗟に出てこないってことは進行形のクレームにもないってこと。だから消去法でプライベート。わかる?」  月島の説明に納得して思い返す晴。思い当たりすぎて思い出したくないけど。   「でも、あるわけ…」 「晴にとって終わった話でも相手は終わってないかもしれない。だろ?」 「………」  月島のいつになく慎重に探る眼差しには一切笑いがない。ますます何も言えなくなる。 「でも名前にも顔にも覚えがない」  写真でしか見ていないが、小野原は大勢の中でも目を引くタイプだ。派手では決してない。でもどうしても目に留まるというか、カメラを構えるとオートフォーカス機能でそこにロックされる、そんな感じだ。だから一度でも見たら忘れない。 「ところで晴って、全部覚えてんの?」  と、月島が失礼なことを言い出す。心外すぎる。 「遊びでお付き合いしたことは一度もございませんが?月島主任と一緒にしないでくださいませ。そう言うってことは、名前なんて覚えてないんでしょ?」  そもそもモテる月島とはお付き合いの質が全く違う。多くもない相手を忘れるわけがない。
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