セッション

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「俺も遊びなんか一度もないわ。誠心誠意、一夜に思いの全て捧げてる。名前も覚えてるよ。ファーストネームはバッチリ」  OKマークを作る月島。 「チャラい。誠心誠意がペラい」 「晴は全て本気だったと?」  ふーんと、月島。 「ずるくない?何を言わせたいの?」 私の質問に、 「本気と言わせて、俺もそのペラさを体感したいだけ」  と。清々しいほど最低だ。  気を利かし、会話が途切れたところを見計らってやってきた店員に月島は「いつもの」と言う。『いつもの』は1のカシスリキュールを9のオレンジジュースで割ったカシスオレンジのことだ。でも、 「ねぇ、大丈夫?」  昼間酔っぱらってただけに心配だ。 「なにが?全然大丈夫だよ。晴にはとりあえず生中」  飲める私からしたら飲めないなら飲まなきゃいいのにと思う。でも付き合いの悪いヤツと思われたくないと付き合ってくれる月島。にしても… 「ホント、大丈夫?」  私を通り越し、あらぬ方向をじっと見る月島。その先にはビールジョッキを片手に微笑むグラドルの古びたポスター。  月島の隣ではさっきから静かにチビチビと梅酒を飲む田神。空のコップが見当たらない。つまり、これが一杯目。男二人して豪快さの欠片もない毎度毎度のさざなみ宴会。本日もビッグウェーブはこないだろうけど…  飲みの最初に“保険”としてオーダーするウーロン茶を月島が口にする。その横には空のグラス。たぶんウーロン茶用。ウーロン茶のペースが早すぎだよ。  もうこれ以上は小野原話の進展は無理そうだ。むしろ、もういい。怪談よりも怖い話なんて聞きたくない。最後は海に沈められてそうな展開なだけに、これ以上させちゃいけない。話を変えよう。
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