セッション

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「なんでまた?」  月島に釣られて私も笑いながら訊ねると、 「祝い」  と、月島は真顔で言う。   「却下。意味わかんないし。それなら新郎の手を取って逃げてよ。そっちの方がネタとして面白い」 「それ、いい!採用!!できれば旦那さま、小柄で目がパッチリの可愛い系にしてね」 「なんでそこに月島の趣味を反映させなきゃいけないの?実際そうなったらなんかネタになんないし。憐れまれるだけだよ」  月島は深く頷いた。「だなー」と。そのまま、頭はこくり、こくりと舟をこぐ。田神はいつのまにかおでこから机に突っ伏して眠っていた。  私を残し、二人はさっさと眠りの国に出発。 しばし、おやすみなさいませ。 「お待たせしました」  ジュウジュウといい音を立て、石焼ビビンバが運ばれてきた。月島用だったはずが一足遅かった。ビビンバに罪はない。うん。「こっちにください」と手を挙げ、お出迎え。あ、唐揚げもどうぞこちらへ。  店員が配膳している間に、ぬるくなったビールを飲み干す。空になったジョッキを返しながら、田神の手に残っている梅酒もスルリと取り上げて、もちろん飲み干してからお盆に乗っける。さらに焼酎ロックのオーダーを追加。 「あ、やっぱり焼酎ロック二つ!あと一緒にお水を貰ってもいいですか?起きたら飲ませるから」  次々と用事を言い付けると店員は「喜んで!」と、空のグラスを持って奥へ下がる。上手く笑えてなかった。「喜んで」いる表情からは遠かった。男二人を引き連れて寂しいヤツとでも思われたかな?  ビビンバの湯気越しに、眠る二人を見つめる。 思いっきり仕事して、こうやって食べ物の温もりと誰かを感じられる今、十分満たされている。この距離ぐらいがちょうどいい。この日常の繰り返しがちょうど。  頬が自然と緩む。仕事中には決して見せない気の抜けた月島の寝顔に笑みを深くする。
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