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月島が飛び起き、器用に別の角でまた頭をぶつける。
私の手荒い起こし方にも文句は付けず(むしろ状況が飲み込めていないのか)月島はキョロキョロと忙しなく中と外を見回し、現在地と状況把握に努めた結果、横に座る私に「ごめん」と頭を下げた。
いえ。打ちどころが悪かったら、逆にごめん…
「疲れてる、ね?」
「入社して7年。疲れてない日なんてないな」
うーんと伸び上がりながら、「田神は帰った?」と早速可愛い後輩の心配。うん、正常正常。
「今、降ろしたとこ。心配してたよ」
「田神が?」
意外というような顔。「明日謝っとくよ」と、月島には珍しくしおらしい。
「この後、何があったか詮索しないってさ」
「は!?なんだよ!何の心配だよ。むしろ詮索しろ!大いに探れって!!」
同じことを言うので私は噴き出してしまう。
「言った言った!!」
「たら?」
「ニヤニヤは、しますって」
「あー、育て方間違えた」
月島がペチッと自分の手のひらでおでこを叩いた。
「晴の背後に立ってくんないかなー、田神。そしたら生意気も引っ込むようなステキな体験できんのに」
今度はニヤニヤと悪巧みを始める月島。
「怪我させたら部長にぶっ飛ばされるじゃん。ねぇ、それより月島、目、真っ赤だけど大丈夫?」
「コンタクトしたままだからな」
月島は瞼をぎゅっと固く瞑り、それから大きく広げる。真顔で。それもかなりの高速で何度も繰り返す。「俺の水分どこいった!?」「角膜取れそう~」などと騒ぎ始めた。静かだった車内が賑やかになる。笑いを堪えているのか、運転手の肩とハンドルを持つ手は震えていた。
「月島、ウルサイよ」
「いやいや、そうは言ってもさ!それどころじゃねぇんだわ!目ん玉カラカラ。ひび割れそう。干ばつ、干ばつ」
目を開いては閉じを繰り返す。それだけならまだいい。人間の表情筋の機能上仕方ないが同じタイミングで口も動く。鯉だ、鯉。
この顔を見れば、100年の恋も冷めてしまう。
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