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月島が送ると言う。
(覚えてはいないが)強烈な一撃で酔いはさめたとマンションの前を通り過ぎ、ズンズン進む月島。その後を私は黙ってついてゆく。
深夜0時過ぎ。電気が付いている家もチラホラ見えるが流石に昼間のような生活音はない。
明日に向け眠りにつく住宅街に二人の靴音だけが響く。コツン、コツ、と少しズレる音が「疲れたね」「そうだな」「週末まであと一日」などと会話しているよう。
突然、空っぽの道路にコツンと別の靴音が高く響いた。
「こんばんは」
同時に背後から声をかけられる。
咄嗟に後ろに大きく飛び退き、そのまま身体を斜めに向けて右半身の構え。
しかしそこにはちょうど同じように振り返った月島の足があって…
武器にもなる細いヒールで足を踏まれた月島は両手を挙げて飛び上がった。そこから声もなく、つま先を抑えてしゃがみこむ。笑っちゃいけないけどリアクションが大きすぎてサイレント映画みたいで笑える。
「あ、驚かせてしまいましたか?すいません」
目の前の人があららといった表情で小さく両手を上げる。可愛い仕草。しかしそれに相反する容姿に一瞬で目を奪われた。ただでさえ大きいといわれる目をさらに大きく見開き、絶句。
180㎝近くある月島よりも背は高く、服越しでもわかるほど全身に薄く筋肉を纏う体躯。シルバーメタルフレームのメガネに、襟足の長いサラサラのストレートの髪は染めてはいないようだが少し明るい。黒のジャケットに黒のスキニーパンツ。よく見ればメガネに薄い色が入っている。刑事ドラマの取り調べ室にあるマジックミラーのようにその奥は見せない。
「そんなに驚かせてしまうとは…」
恐縮する彼。そう言いながらも、顔はゆっくりと上下する。その視線は月島ではなく明らかに私に向けられていた。
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