186人が本棚に入れています
本棚に追加
「どうぞ私を罵ってください。とかいうキャッチフレーズでひと儲けする?“罵られ屋、始めました”って立て看板、作ろうか?」
デスクパネルの向こうから声がする。就業時間中にも関わらず、子供か!?というぐらい一人で盛り上がっている。
「受話器から漏れるぐらい大声で罵倒されてまた喜んでただろ?」
どんだけMなんだよと、揶揄いつつも椅子から立ち上がった月島は呆れていた。毎度毎度、よくやるねと。
「だって示談できたし、ね?」
私もそこは遠慮しない。今回は運が良かっただけです、とか遠回りな謙遜なく、事実を告げる。
「ね?じゃねぇよ。怒鳴るように自分から仕向けて、挙句優しい人を演じて、人の良心をグイグイつく三段戦法。怒らせ詐欺じゃねぇか!」
と、月島。
「ちょっと“人でなし”みたいな間違ったニュアンス醸さないでよ!技術でしょ?これも。良い子のみんなが誤解するようなこと言わないでよ!!」
「じゃあなに?ろくでなしだ」
さらに月島がフンと鼻で笑う。
「ちょっ…――あぁ!!電話だ」
反撃を遮るコール音。
電話機のディスプレイで外線番号と確認。ワンコールで受話器を取り上げる。
「アメリカンクランプ損害保険会社 森野でございます」
アメリカンクランプ損害保険会社 自動車事故第一センター。従業員数3000人、中堅損害保険会社の事故処理部門だ。
ここではコールセンターで受けた自動車事故報告の損害確認、怪我があれば病院への対応、過失割合から示談交渉まで保険金支払い業務を中心に行う。
通話時間はきっかり15分。
「まずはお身体の方を大事になさってくださいね。お電話ありがとうございました。失礼致します」
そして音を立てないように受話器をリリース。
「完璧だな」
デスクパネルの向こうから今度はお褒めの言葉。二人を隔てる壁の上からスマホ画面が見せられる。ストップウォッチが14分50秒で止まっていた。
最初のコメントを投稿しよう!