リクエスト

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「どうぞ私を罵ってください。とかいうキャッチフレーズでひと儲けする?“罵られ屋、始めました”って立て看板、作ろうか?」  デスクパネルの向こうから声がする。就業時間中にも関わらず、子供か!?というぐらい一人で盛り上がっている。 「受話器から漏れるぐらい大声で罵倒されてまた喜んでただろ?」  どんだけMなんだよと、揶揄いつつも椅子から立ち上がった月島(つきしま)は呆れていた。毎度毎度、よくやるねと。 「だって示談できたし、ね?」  私もそこは遠慮しない。今回は運が良かっただけです、とか遠回りな謙遜なく、事実を告げる。 「ね?じゃねぇよ。怒鳴るように自分から仕向けて、挙句優しい人を演じて、人の良心をグイグイつく三段戦法。怒らせ詐欺じゃねぇか!」 と、月島。 「ちょっと“人でなし”みたいな間違ったニュアンス醸さないでよ!技術(わざ)でしょ?これも。良い子のみんなが誤解するようなこと言わないでよ!!」 「じゃあなに?ろくでなしだ」  さらに月島がフンと鼻で笑う。 「ちょっ…――あぁ!!電話だ」  反撃を遮るコール音。  電話機のディスプレイで外線番号と確認。ワンコールで受話器を取り上げる。 「アメリカンクランプ損害保険会社 森野(もりの)でございます」  アメリカンクランプ損害保険会社 自動車事故第一センター。従業員数3000人、中堅損害保険会社の事故処理部門だ。  ここではコールセンターで受けた自動車事故報告の損害確認、怪我があれば病院への対応、過失割合から示談交渉まで保険金支払い業務を中心に行う。  通話時間はきっかり15分。 「まずはお身体の方を大事になさってくださいね。お電話ありがとうございました。失礼致します」  そして音を立てないように受話器をリリース。 「完璧だな」  デスクパネルの向こうから今度はお褒めの言葉。二人を隔てる壁の上からスマホ画面が見せられる。ストップウォッチが14分50秒で止まっていた。
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