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「だから仕事に結婚は必要ないって簡単に割り切れるんだろ?相手のことを知ろうともしてないから。知らないから、自分の大切なものを失くしても、不幸になっても、他人を不幸にしてもいいと思えるほど誰かを幸せにしたいと思えないんだよ。ちょっと気持ちいいぐらいの関係を続けたい。でもこれ以上は厄介ごとに巻き込まれる。だから別れる。いつもそうだよな?それこそが損得勘定だろ?」
月島が私に思いの全てをぶつけてきた。たぶん今まで溜めてきたもの全て。
私は人を好きになるという自発的な感情が欠落している。それを隠すように、目立たないように形ばかりの普通を求めている。
好きという感情はいつも凪いでいて、船に乗り、どこまでも続く波のない海面を見ているよう。一人。
静かになった私に月島は何も言わない。
普段ならもう一段階追い詰めて、私を反省させ、最後は笑いに変えて浮上させる。それが月島のやり方だ。しかし今日はそうしてくれない。つまりは本気をぶつけてきたということだ。
皿の横に千円札を置くと「言い過ぎた」と、月島は店から出て行った。
「晴さん?」
田神が遠慮がちに私を呼ぶ。いつもより小さくなって背中を丸めている田神に、
「ごめんね…」
嫌な思いをさせてしまったと素直に謝る。気晴らしをしてもらおうと思って外に出てきたランチだったのに大失敗になった。
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