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ロビーで田神と分かれ、一足先にセンターに戻ってきた。電話当番以外はまだいない。日中には珍しくシンと静まり返っている。
もちろん隣りも空席。
私とは違い、きちんと分類されている書類の山が見える。たぶん月島の頭の中も、あんな感じ。だからこそ怒った理由は田神の想像とはちょっと違う気もする。そんな単純な話じゃないような。
それでも仕事優先。今は今夜に控えた小野原との面談の策を練る方が先だ。こういうとこがホントにダメなんだろうと思う。月島ならわかってくれる、と甘えてるとこも二重に三重にダメなんだろう。でも直らないんだよね。
小野原の資料を広げ、もう一度状況を確認する。見飽きるほど見た。でも見落としがあるかもしれない。ミスを防ぐことは、まず自身を疑うことから始まる。
話の流れを組み立てる。こうきたら、こう返す。柔道の打ち込みみたいに。
普段は3パターン用意しておくが、小野原の場合はそれだけではとても足りないと思う。かといって、想像を超えてくる小野原の発言を予想するのはもっと難しい。
低くうなるパソコンのモーター音が遠くなっていく。思考の海に深く潜り込んでいく。
何が目的か。本当に原状回復だけが目的?
他に欲しいものは?何を引き出したい?お金じゃないなら…
命とか。まさか、ね?自信がなくなり、疑心が心を占める。
視界の端から白くて長い指先が伸びてきた。チョンと紙を摘まんで私の手から取り上げる。
「いい男!」
「藤崎本部長!?」
美人すぎる我がセンターのボス 藤崎 依子が横に立っていた。最年少で地区本部長になって早3年。生きる伝説は衰えを知らない。
緩やかに波打つ長い髪は動くたびにバラの香りがする。
耳に髪をかけ「なになに?」と、楽しそうに他の資料も合わせて一つずつチェックする。その横顔にはシミひとつない。10代のキメの細かさだ。
出会った頃から変わらないスタイルと妖艶さ。溢れ出る色香には男性ばかりじゃなく女性も注意。
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