ディスタンス

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「あ、そうそう。晴ちゃん、お見合いの件だけどさ。先方の都合もあって――」  声まで色っぽい。柔らかいっていうか、まろやかというか。  夢見心地に藤崎の発する音だけ追っていたが、脳内再生して恐ろしいその内容にはたと我に返る。 「お見合いするみたいな(てい)で進めないでくださいよ!」  慌てて立ち上がる。気を付けないとこういうことになる。  日々、話と話の間に見合いを挟んでくる。もうセクハラと感じなさせないほど日常的に。相手はご挨拶レベルで仕掛けてくるので非常に質が悪い。 「あ、バレた?仕事でいっぱいいっぱいな時だったら、いけるかなーと思ったんだけど」  屈託なく笑う藤崎。厳しい仕事中には決して見せないリラックスした表情に、電話当番も落ち着かない。チラチラとこちらを気にしている。同じ空間にいる人間は、それも見慣れた人でさえ、こうやって色気に惑わされる。誰かが昔、影で不二子ちゃんと呼んでたけど、うん、「ルパ~ン」が凄く良く似合うと思う。 「いい男。でも振り回されそうね」  今度はただの紙を角度を変え、藤崎は眺めている。飛び出て見えるわけでも、ホログラムが仕込まれているわけでもないのに楽しそうだ。子供っぽいというか、無邪気だ。 「本部長が振り回されそうですか?」 「依子さん、ね?今、お昼休みだから」  すかさず藤崎から訂正が入る。藤崎はON・OFFがとてもハッキリしている。 「依子さんでもですか?」 「でもって。でも、そうね。これぐらいがちょうど良さそうな感じよ」  至近距離からの艶やかな藤崎の笑みに同性ながらハートに矢が刺さった。なんでこんなに可愛いんだろ…。嫉妬も通り越して感心、感動? ううん、感服だ。参りました。
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