ディスタンス

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「ちょうどいい男、ですか?」  決して強がりではない。どこまでも本気な藤崎。私がクスクス笑うと、 「噛み応えあるぐらいじゃないとねー」  なんて言う。 「噛み応え?噛み応えで言えば、ふにゃふにゃすぎて噛み切れなくて飲み込むタイミングがみつからない戻したばかりの味のないかんぴょうって感じですよ?」  私の説明に藤崎は「ふーん」と言って、続ける。   「あらそうなの?意外ね。鼻っぱし強そうなのに。まあでもそのうち、味もでてくるわよ。奥のほうからハバネロが追いかけてくるのよ、きっと。それぐらいの刺激がないと調子でないもんね?晴ちゃん」 「依子さん…」  げんなりする晴に藤崎がフフッと笑う。自分のこと知らなさすぎ!と。  藤崎と出会ったのは晴が高校生のころ。  藤崎が現場の第一線で活躍していた時に事故現場で出会った。それから数年後。今度は就職先で再会。会えるなんて思っていなかった。だから単純に嬉しかった。覚えていてくれたことはもっと嬉しかった。  私にとって藤崎は目標であると同時に“こうはなれない”人。藤崎は別格。仕事も外見もパーフェクトな藤崎になれるわけがない。しかし目標が常に目の前を歩くというのは良い。モチベーションが上がる。そして誰よりも信頼している上司の下で仕事ができるということは何にも代えがたい。 「ねぇ、惚れた?」  机に書類を戻しながら、藤崎はニヤリと笑う。 「いきなり女子トークですか?」 「こんなに食い入るように見てるから」 「依子さんは仕事に私情は挟まないでしょ?」 「うーん。いい男だといい仕事しようと思うけど?気合入るよね!」  と、藤崎はガッツポーズ。  なんか、違う気がする。紐でグルグル巻きにして、こてんぱんにやっちゃう感じでしょ?それ。
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