ディスタンス

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「で?何を言われたの?月島って器用そうに見えて意外と直球しか投げられないじゃない?それを隠すようにチャラそうにしてるけど、根が真面目だから。なんて言うの、つまんない男よね」  と、藤崎。何を言い出すのかと思えば、部下をつまんないとか。でも否定するには体力を使いそうだからここはさっさとスルーを選択。 「凹んで見えます?」 「私にはそう見えるけど?」  聡いのか盗聴器なのかわからないけど、何より藤崎の尋問はもがけばもがくほどにゴールが遠ざかる蟻地獄だ。 「告げ口みたいで嫌なんで…」 「いいから、早く!!」  藤崎に食い気味で急かされる。  藤崎はせっかちだ。信号待ちも自分の前の歩行者用信号は見ない。常に車道側を見ていて、そっちが赤になったら歩き出す。歩道側が青に変わった瞬間に一番に踏み出すのが気持ちいいんだとか、これもまた常人には理解し難い悦ポイント。  さらに藤崎は結論から知りたがる。「前置きが長い」と部下を叱り飛ばす。でも結果を伝えると「なんでそんなことになってんのよ!?」とキレる。上司とはいつの時代も変わりなく理不尽な生き物だと思う。  そんな藤崎の性格は嫌というほど熟知している。つまり、ここはさっさと白状するに限るという話。うん。 「人を知らないから“不幸になってもいいと思えるほど、誰かを幸せにしたいと思えないんだろ?”って。つまり人を知ろうともしてないってことで、あぁ、よく見てるなって思いました」  がむしゃらに誰かを思うなんてずいぶんとしていない。それでも人に迷惑をかけていないと思っていたけど…
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