アタック

2/17
186人が本棚に入れています
本棚に追加
/146ページ
 待ち合わせ場所は会社からほど近いホテルの一階喫茶スペース。時間は19時。  ホワイトボードにミミズの這ったような“NR”を書き込み、「明日は休み!!」コールで送られて会社を出た。そして現在18時45分。ホテル前。  ホテルの出入口は金曜日の夜ということもあってごった返していた。チェックイン待ちの観光客や最上階のレストランに向かうエレベーター待ちの人々。そこに付随する荷物の山。  心浮き立つ楽しそうな声に気持ちがポキッと折れそうになる。  なぜかここだけイモ洗い状態。そこに隙間を見つけて身体をねじ込む。かき分けながらひたすら前を目指す。絶対ホテルの設計ミスだ。入口にこんな人だかり、人を迎える気がないだろう。 「……る」    抜け出る直前、誰かに呼ばれた。  おしくらまんじゅうの塊からポンと放り出された先で振り返る。しかしそこに知った顔はない。みんな自分とは違う目的地の方を向いている。正直こんな所で知り合いに会ったら、ただでさえ少ないやる気は死んでしまうだろう。気のせいということで片付ける。  長い廊下を進む。奥に小さなカフェスペースが見える。あそこが小野原との待ち合わせ場所だ。  天井が高い廊下に反響する足音。自分の足音に追い立てられ、鼓動はいつも以上に早い。  緊張と不安。でも微かな興奮に歩く速度がどんどん上がる。  電話の会話で得る情報はそう多くない。結局は見ず知らずの人。だからいつだってファーストコンタクトでは緊張する。どれだけ長く仕事を続けても慣れることはない。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!