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「結局は大して好きじゃなかったんだろ?」
月島に図星を指される。
流されたわけじゃない、とは胸を張って言えない。彼は空気の読めた人で、手がすいたタイミングでいつも連絡をくれた。だから楽だった、とか言ったらぶっ飛ばされそうだけど。実際はそうで。
嫌いじゃない、でもこの人じゃなきゃダメではなかった。そういう後ろめたさもあって…
「どっか壊れてんのかな?」
反省と自分に対する不安から口をついて出た私の言葉に、
「今さらかよ」
月島が鼻で笑う。笑われると不思議と楽になる。否定されるよりずっと。
美人と呼ばれる部類ではない。だから「付き合ってほしい」と言われれば断らない。見栄のような、意地のような、誇れるものがない小さな自分だからこそ人並みかプラス1を求めてしまう。
でも恋愛よりも仕事の方が大切。仕事は変わらず居場所を提供してくれるから。時間をかけ、やっと“居ても良い”許される場所になったのだ。今更そっちを失くす方が怖い。だからいつでもバッサリ恋愛を切り捨てる。冒険もない、波風立たない現状維持を望む自分は大して強くない。
「まぁ自分が不幸であることと、他人の不幸を背負うことってちょっと違うもんな」
晴を見て、「よっぽどの好き、じゃないと難しいかもしれないよな」と月島は穏やかに微笑む。遠回しに説教されている、と思う。でもそういうとこがダメなんだよとは決して言わない。
「まぁ、俺も偉そうなこと言えないよな。俺らの仕事って不幸の真っただ中の事故当事者と向き合うだろ?話に耳を傾け、励まして、時に喜びを分かち合って。これもあくまで仕事だから。お金をもらってるからやってるだけ。被害者の思いを想像して、眠れなくなるほど親身にやってんのか?って聞かれたら、間違えなくできてない」
「そりゃ、そうだよ」
一件、一件向き合ってたら身が持たない。
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