186人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺たちの仕事は慈善事業じゃない。契約者から集めた保険料で事故にあった人に保険金支払ってる。それで飯も食ってるプロだ」
そう月島は言い切る。
「プロ…」
「弁護士でもないのに示談交渉してるアジャスターだろ?困ってる“その人”のために仕事してる。ただそれだけ、なんだよな?」
だろ?と、月島。確かにその通り。感情で仕事をしているわけじゃない。そんなことをしたら収拾付かない。
「怒鳴られても動じない。逆に“しめた!”って不気味に微笑んでる晴は本物だ」
そう断言されても、
「褒められた気がしない」
むしろディスってるようにしか聞こえない。
「マジでリスペクトしてるよ。そんな晴がいるから、俺もこの仕事続けて来れたし、続けたいって思うし、これからも……あれ?何言ってんだろ?」
月島がおかしいなと首を傾げた。
確かにおかしいかも。少し顔が赤い。目もウルウルしてるような…
「まさか、」
昼間から酔ってる。自分に、ではなくもちろん酒に?
「あ、さっきのチョコ。あれ、田神にもらったチョコだよね?まさか、ウイスキーボンボン!?」
月島は酒に弱い。それも子供以下のありえないレベルの弱さだ。
滑らかな自分の語りに月島自身も異変に気付く。慌てて前の席に座る田神のごみ箱を漁りに行き、チョコレートの空箱を見つけ、成分表示部分を確認。「何してるんですか?」とポヤンと見下ろす田神の頭に箱の角を突き立てる。
田神は何も言わないが、これは立派なパワハラだ。訴える時は加勢してあげるからね!
「おーい!そこで夫婦漫才してる晴、電話。3番、小野原さん」
そこに結城が割り込んできた。こっち、こっちと手をあげる。
「はーい!もらいます」
私もブンブン手を振り、それに応えるように電話をもらう。とりあえず酔っ払いは後回し。
最初のコメントを投稿しよう!