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「変なことに巻き込まれてないんだな?」
改まって月島がそう訊ねてくる。
「ない、です」
「携帯は?」
鞄を確かめる。
「持ちました」
「何時に帰るの?」
「おかんみたい」
「やかましいー!」
知らないんだろ?と、月島は車の窓に頭を突っ込んで小野原に直接尋ねる。
「夕方には送り届けますよ」
車のエンジン音に紛れて小野原の声が漏れ聞こえてきた。
「行き先は?」
月島はしっかりと目をみて小野原に訊く。
「静岡です」
え?静岡?都内でも横浜でもなく…
「了解です。何かありましたら連絡ください。迎えに行きますから」
「わかりました」
小野原と月島の間で打ち合わせを終える。自分だけ仲間外れにされたとは思えない。月島だけじゃなく、こうやって真摯に答える小野原にも大切にされているとちゃんと想像できたから。
月島に腕を引かれ、車の前に出される。「よろしくお願いします」と、月島は頭まで下げてくれた。
月島はグーのポーズを作り、「ほら!」と私の前にそれを突き出す。私が拳を作ってコツンとそこに当てると、月島からも同じように返された。
「いってらっしゃい」
普段は見せてくれない特別な思いは拳の中に隠されている。
◇ ◇ ◇
「眠っていいですよ。お疲れでしょ?着いたら起こしますから」
小野原の声は心地よい。そしてエンジン音も振動もない高級車ならではの静寂。座り心地の良い革のシートで目を閉じる。
涙を隠すように寝たフリをした。
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