セッション

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「いつも通り。公私ともに絶好調だよ?」  でも、何言ってんの?と笑い飛ばされる。そうされることでやっぱり触れてほしくないことがあるんだなと思う。確信に変わると、これ以上は何も言えない。 「あ、いや、あのね…ストーカー規制法って知ってるよね?」 「なんの心配してるんだよ」   月島が笑う。のんきな声。いつも通りの月島が、いつも通り笑い飛ばす。これが、月島で…  車内に差し込む街灯は仄暗い。当たり前にいつもそばにいる月島の輪郭が見えない。線のように解ほどけて、夜闇に取り込まれ、消えてしまいそうで急に怖くなった。  私は底が見えない夜の海に手を突っ込むみたいに椅子の上を探る。すぐに月島の手にぶつかった。 「どうした?」  と、月島。 「ううん」  かぶりを振ると、「なんだよ」と二度、拳で私をノックする。 「着きましたよ」  運転手の呼びかけに「これで」と月島は財布から紙幣を数枚取り出した。「お釣りはいいです」と言い、「ほら!早く出ろよ」と私を追い立てる。  え?うちの家、この先…
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